映画レビュー:パラサイト
【融合とその代償】
【個人採点】80点(100点中)
アカデミー賞作品賞を受賞してからやっと観る事になりました。
素直に観た後の気持ちとしては、作品の良し悪しというよりも、この映画を評価したアカデミー賞の新しい姿勢に感銘を受けました。
一時期投票の不正などの疑惑によって、作品に対する偏った評価が疑われた賞ですが、逆にこの件があったからこそ、生まれ変わった印象を持ちました。
個人的には日本も含め久しぶりにアジアの映画を観ました。
やはりハリウッドとは違う、独特のドロっとした生々しい感性や表現が久しぶりで新鮮でした。
●この映画のジャンル
友人や他の方のレビューを観ると、この映画のジャンル分けが観る人によって少し異なったり、むしろこの映画にはジャンルなんて存在しないんじゃないかというコメントも散見していました。
僕の個人的な印象でジャンルをつけるとしたら“サスペンス喜劇”かな?
確かにそれ以外にも様々な要素が含まれているので、どんどん足していくとジャンルの塊みたいになりそうですがw
すごく社会派な映画でもあると思います。ミクロからマクロまで、人々の生活から国家間の関係性まで、この世にある、異なるものが共生している状況全てに向けた“サスペンス喜劇”。
●パラサイトという現象
あまり細かいストーリーは書きませんが、大まかに言うと、貧困の4人家族(キム家)が身分を偽って裕福な家庭(パク家)に使役として入り込むという話です。
1つの家が、2つの異なる身分の家族が共有する場になり、一見うまくいきかけた共生の図ですが、少しずつ歪みができ、些細なわだかまりが崩壊を招いていく。
ポン・ジュノ監督自身がインタビューで話していますがこの映画では、資本主義の基盤の上で、暮らす我々の社会に存在する“格差社会”、“見えない階級の壁”、“不平等”がストーリーを進める上で大事な要素になっています。
(Jorkerで取り上げた要素と似ていますね)
また監督自身も学生時代に家庭教師を務めて体感した“他人の生活”の印象が強く映画に反映されているそうです。
そして作品に度々出てくる階段の存在。この階段は社会の中にある格差の階段を指し示しています。そこをキャラクター達が優雅に上がる。駆け下りる。滑り落ちる。そういった行動的比喩が2つの家族の背景の違いを表していると言えるでしょう。
●あくまでも構図を守るため
映画を観ていく中でツッコミどころはありました。
例えばせっかくパク家に入り込んで安定した収入を得始めたのに向上しようとしないキム家の暮らし。せめてホテル暮らしとかすればいいのにと思いました。
が、あくまでも監督は2つの家族が代表する背景を最後まで崩したくないからこそ、そこに変化はもたらさなかったんだと思います、ら
だからこそ展開が少し早めに進んでいったんだと思いますが、それにしても映画自体は長く感じてしまいました。
“想像もつかない結末”を引っ張って引っ張って、これかな?あれかな?と思っていたらどんどん話が続いていってちょっと最後の方は疲れてしまいました😅
●日本の映画は終わっているのか?
今回のパラサイトの受賞で日本映画の現状を嘆いている人がいますが、どうなんでしょう?
そんなに沢山いい日本映画はあるかわかんないし、映画館で予告観ても観る気がわく事なんて稀だけど、ちょっと前なら『万引き家族』がカンヌのパルムドールを受賞したりしましたし、ニッチだけど『シン・ゴジラ』も面白かったですよ。
ハリウッドのような視覚的な壮大さで作品を作りたいならアニメで表現するしかないんじゃないだろうか。
それこそアニメシリーズのスピンオフ映画ではなくて、ジブリ映画や少し前の『この世界の片隅に』のようにアニメならではの奥深さや世界観を持って。
その為の働く環境や技術者の金銭的・健康面的ケアはとにかく必須で改善するべき事案だと思いますが、実写の映画界もそうだと思いますが、まずそういった環境さえ良くしてあげればどんどん良くなる気がします。
とにかくアジアの映画がアカデミー賞で評価された。それが希望であり、これから日本の映画も世界の評価を意識したければ、無理にハリウッドの真似はしないで、淡々と作品を作っていけばいいんじゃないでしょうか?